健康モーニング79号
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14 KKCヘルスネットワーク No.79(2012. 1) 職域定期健康診断結果を用いた喫煙行動傾向の検証労働者の喫煙傾向について大阪・兵庫事業部 保健技術グループ 池田 麻里子【背景】 職場において、喫煙対策を立てたりその効果を検証するためには、その職場における喫煙行動の傾向の解析が必要です。喫煙行動の傾向は年度ごとの喫煙率の推移などからもある程度推測できますが、経年的な解析による動的傾向の検証の方が、より多くの情報をもたらすと考えられます。今回我々は健康診断の問診票の記載から受診者の喫煙行動の動態を解析しました。 更に2010年に実施されたたばこ税増税による影響についても検証を行いました。【調査対象】 定期健康診断を連続2年受診した方のデータを用い、問診票の喫煙行動についての記載(「以前から吸わない」「今はやめている」「現在習慣的に吸っている」)が初年度と次年度でどう変化しているかを調べました。使用したのは以下の3組のデータです。 ①2007〜2008年度:男性 285,268名、女性 134,421名 ②2008〜2009年度:男性 270,700名、女性 132,200名 ③2009〜2010年度:男性 271,499名、女性 133,535名【調査方法】Ⅰ.職場における喫煙行動動態として下図のモデルを仮定し、次に記した3つの割合を5歳刻みの年齢階層別に計算しました。1)�喫煙開始率:非喫煙者が翌年度の健診時に喫煙を開始した割合2)�喫煙移行率:喫煙者が翌年度の健診時に禁煙を開始した割合3)�喫煙再開率:禁煙者が翌年度の健診時に喫煙を再開した割合非喫煙者喫煙開始率禁煙移行率喫煙者禁煙者➡⬅➡喫煙再開率Ⅱ.上記1)~3)の総合として、前年度から翌年度にかけて喫煙者の割合がどの程度増減するか(喫煙増減率)をⅠと同様年齢階層別に、以下の式にて計算しました。 (次年度喫煙者数-前年度喫煙者数)÷前年度喫煙者数Ⅲ.調査対象に記した①~③のデータを比較することにより、2010年10月に行われた、たばこ税の増税による効果を検証しました。【調査結果】Ⅰ.職場における喫煙行動動態のモデル調査1)喫煙開始率* 以下のケースは記載の信用性が乏しいとみなして除外しました。 ・喫煙開始年齢が実年齢を超えている場合 ・喫煙開始年齢が14歳以下の場合 ・�初年度が「以前から吸わない(非喫煙)」で次年度が「今はやめている(禁煙)」の場合 ・�初年度が禁煙あるいは「現在習慣的に吸っている(喫煙)」で次年度が非喫煙の場合 2009年度にそれまで喫煙したことのない受診者群(非喫煙群)のうち、どのくらいの割合が翌年度喫煙を開始したか(喫煙開始率)を解析した結果、男女とも法的に喫煙が可能になる20歳をはさんで10~20代に喫煙を開始することが多いことがわかりました(下図参照)。この結果より、10代~20代前半の若年層に啓蒙を行い、喫煙を開始させない働きかけが特に重要であることが示唆されました。2)禁煙移行率 次に、2009年度に喫煙していた受診者群(喫煙者)が翌年度どのくらいの割合で禁煙するかを解析しました。 男女ともに禁煙移行率は年令階層による差は少なく、男性ではおおよそ8~11%程度、女性ではおおよそ9~18%となりました。女性の場合30代前半までの禁煙移行率が特に高いですが、これは妊娠、出産が影響している可能性が考えられます。3)喫煙再開率 次に2009年度に禁煙していた受診者群(禁煙者)が翌年度どのくらいの割合で、喫煙を再開するか(喫煙再開率)を解析しました。男女とも加齢とともに喫煙再開率は低下する傾向を示しました。20代までの若年層は男女共、喫煙開始率、禁煙移行率も高いが喫煙再開率も高くなる傾向を示しています。 喫煙と禁煙の間で揺れ動いている若年層をいかに禁煙方向に固定できるかは、喫煙率を低下させるうえで重要な課題だと考えられます。

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