健康モーニング79号
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5 KKCヘルスネットワーク No.79(2012. 1) 証・安全管理体制の見直しを実施し、2006年に原子力安全・品質検討会を設置し、安全及び品質マネジメントシステム活動を強化し、展開している。その中には、社長は、法令や保安規定の遵守、安全文化の醸成に係る基本方針を定め、必要に応じて基本方針の見直しを行うことを宣言し、活動計画の承認(Plan)、活動の実施(Do)、1年間の活動に関する評価・考察(Check)、改善方針の策定(Action)、計画の見直し、といったPDCAサイクルを回すことが決められ、取り組んでいる。 ではどうして事故が起きたのであろうか。詳細は事故調査・検証委員会の報告を待たなければならないが、東京電力は、発電所の設備設計は法令に基づき許可を得てきた。事故は想定外規模の地震、津波により外部電源を失ったためポンプが稼働できなくなったことによるとしている。 リスクアセスメントでは、リスクを見積り、優先度をつけて改善に取り組むとしている。加算法では、頻度、可能性、重篤度を加算する。今回の事故で評価するなら、頻度は低いものの、可能性は事故が発生するまで危険を検知する手段がなく、危険に気がついた時点では、回避できないので確実であり、重篤度は死亡につながる。リスクはⅠ~Ⅳの段階のⅣと最も高く、「優先度は直ちに解決すべき問題がある、災害発生の可能性は重篤災害の可能性大、取り扱い基準は直ちに中止または改善する」に相当する。 マトリックスを用いた方法でも、負傷又は疾病の発生可能性の度合は殆どないが、負傷又は疾病の重篤度は致命的であり、優先度は5段階のうちの4に相当し、優先度は高く、「直ちにリスク低減措置を講ずる必要がある。措置を講ずるまで作業停止する必要がある。十分な経営資源を投入する必要がある。」となる。しかし、これらは形式に流れているきらいがある。 隕石が当たって死ぬ確率よりも小さい。従って、0に近い確率で起こる事象は考えない(想定外)。想定外であるならば、リスクを見積もることはできず、リスクマネジメントは成り立たない。マネジメントはトップの意思を現場にまでマニュアルを使って伝達し、現場はその指示通りに行動するが、トップが想定しなければ、成立しない。安全をトップの意思に任せてしまうと、下は思考停止する。 最近、吉村達彦著「想定外を想定する未然防止手法GD3」が出版された。GD3とは、Good Design, Good Discussion、Good Dissectionを表し、トヨタ初代プリウスの開発プロセスにおいて、このGD3を通して、品質、信頼性、不具合未然防止の活動がなされてきたことが紹介されている。GD3では、現地、現場で「人」が創造性を発揮して「問題の芽を見えるようにして」「見つける」ことを基本にしている。創造性を発揮する条件は、COACH、すなわちConcentrating(切羽詰まって集中する)、Objective(客観的に見る)and Challenging(良いイメージを持って諦めない)としている。日本的マネジメントはFind(見つける)、Plan(計画する)、Do(実行する)、See(確認する)をCompletely and Fast(徹底的に速く)回転し、Attain(目標達成)、Bring up(育成)し、visualize(見えるようにする)としている。日本的MSは現場で一人一人が絞り出すように創造し、個々の職場での判断をもとに改善が進められ、マネージャーはバラバラになりがちなベクトルを一つの方向に向ける。吉村の主張する日本的MSは、ボトムアップであり、マネージャーは調整である。 岡本浩一は「無責任の構造―モラルハザードへの知的戦略」で、無責任を引き起こす集団と人格のメカニズムを社会心理学的に分析している。岡本は1999年に起こった東海村JCO臨界事故の調査委員で、この事故は各部署で違反が積み重ねられ、その結果起こるべくして起こった。組織内で同調と服従の心理が働き内面化し、組織としてモラルハサードに陥ったと述べている。

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