健康モーニング79号
8/24

8 KKCヘルスネットワーク No.79(2012. 1) 笑いと健康を科学する!~笑うと認知症予防になるか!?~大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 大平 哲也はじめに欧米では「Laughter is the best medicine(笑いは最良の薬)」と言われているように、笑いと健康とは深く関係していると考えられています。また、これまで経験的に言われてきた笑いと健康との関連が、近年、科学的に検証されるようになってきました。本稿では、笑いと健康との関連について、身近な疑問や日常生活で改善できることを含めて、これまでの研究および筆者らの研究成果をもとに概説していきます。最初のテーマは、「笑うと認知症予防になるか!?」です。どんな人が認知症になりやすいのか?●認知症は予防できるの? そもそも認知症は予防できるのでしょうか?認知症はアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症に大別されますが、いずれも年齢と強い関連があり、年齢とともにその頻度が多くなります。また、これまでの疫学研究により、脳血管性認知症には、高血圧、糖尿病、喫煙などの脳卒中危険因子を有することが関連すると報告されています。さらに、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症はともに、定期的な運動、適量飲酒、魚介類に含まれるn3系不飽和脂肪酸の摂取が予防的に働くことが報告されています。したがって、こうした危険因子や生活習慣と笑いとの関連がみられれば、笑いは認知症とも関連する可能性があると考えられます。笑いは認知症の危険因子と関連するのか?●男女どちらがよく笑うの? 筆者らがこれまで40年以上の長期間疫学研究を実施してきた大阪府Y市M地区の住民2471人(男性846人、女性1625人、平均年齢59歳)を対象として、普段“声を出して笑う”頻度を質問紙により4段階で評価するとともに、食事、運動、睡眠、うつ症状等の生活習慣、疾病の有無等についての問診・検査を実施しました。 図1に、男女別にみた声を出して笑う頻度の結果を示します。男性ではほぼ毎日声を出して笑う者の頻度は約40%であったのに対し、女性では約54%であり、女性の方が普段声を出して笑う頻度が多くみられました(p<0.001)。また、男性では声を出して笑う頻度が週1日未満(週に1日も声を出して笑わない)の者が約20%存在しており、女性の約10%に比べて約2倍でした。このような男女差は、秋田、茨城、兵庫、高知県などの集団でも同じようにみられており、女性の方がよく笑うという通説は本当のようです。0%20%40%60%男性女性80%100%5440137364072図1 男女別にみた笑いの頻度図1■ ほぼ毎日■ 週に1~5日■ 月に1~3日■ ほとんどなし●笑いは年齢と関連するの? 男女別に声を出して笑う頻度と年齢との関連をみますと(図2、3)、40歳未満、および40歳代の女性においては、60%以上の者がほぼ毎日声を出して笑っていたのに対し、70歳以上になると、ほぼ毎日声を出して笑う頻度は43%に低下しており、年齢とともに笑いの頻度は少なくなることがわかりました(p<0.001)。男性においても女性と同様に笑いの頻度と年齢とともに少なくなり(p<0.001)、40歳未満の男性では、ほぼ毎日声を出して笑う頻度は58%であったのに対し、70歳以上では36%に低下していました。また、70歳以上の男性では、週に1日も笑わない者の割合が30%近くに達していました。このような笑いと年齢との負の関連は、20歳〜60歳の企業従業員を対象とした検討でも同じようにみられました。したがって、笑いは年齢とともに減っていくと言えるでしょう。0%40歳未満40~49歳50~59歳60~69歳70歳以上20%40%60%80%100%図2 声を出して笑う頻度と年齢との関連(女性)図2■ ほぼ毎日■ 週に1~5日■ 月に1~3日■ ほとんどなし0%40歳未満40~49歳50~59歳60~69歳70歳以上20%40%60%80%100%図3 声を出して笑う頻度と年齢との関連(男性)図3■ ほぼ毎日■ 週に1~5日■ 月に1~3日■ ほとんどなし

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です