健康モーニング79号
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9 KKCヘルスネットワーク No.79(2012. 1) ●笑いを増やす生活習慣はあるの? 笑いの頻度別に、自覚的ストレスやうつ症状の有無、食生活(脂質、糖質、塩分、魚、野菜類の摂取頻度)、睡眠、運動習慣の有無、飲酒量、喫煙量に違いがあるかどうかを検討してみました。その結果、男女ともにうつ症状を訴える者ほど笑いの頻度が少なく、野菜の摂取頻度が少ない者ほど笑いの頻度が少ない傾向がみられました。また、男性では喫煙している人ほど笑いの頻度が少ない傾向でした。さらに、年齢を調整した上で、笑いの頻度と生活習慣との関連をみると、野菜の摂取頻度が少ない人は、多い人に比べて男性では1.37倍、女性では1.49倍笑いの頻度が少なくなる(毎日笑っていない)リスクをもつという結果がみられました。また、男性の喫煙者は非喫煙者に比べて1.35倍笑いの頻度が少なくなるリスクをもつという結果でした。これらの関連はうつ症状とは独立してみられており、笑いの頻度が少ない人は、喫煙や野菜摂取不足など認知症の危険度を上げるような生活習慣をもっている傾向があると考えられます。●笑いは認知症の危険因子と関係するの? これまで、笑うことによって糖尿病患者の血糖値の上昇を抑える働き、動脈硬化の初期段階である血管内皮機能を良くする働き、及び自覚的ストレスやストレスの客観的指標である血清・唾液中コルチゾール及び唾液中クロモグラニンを減少させる効果が報告されています。また、上記の地域住民においても、特に女性において、笑いの頻度が少ない人が糖尿病を有する割合が高いことがわかりました。糖尿病、動脈硬化、自覚的ストレスは脳卒中の危険因子であることが知られていますので、普段からよく笑っている人は、そうでない人に比べて、こうした危険因子を介して脳血管性認知症になりにくい可能性が考えられます。☆笑いは認知症を予防するか?●笑いの頻度と認知機能との関連 ~横断研究~ では、実際に笑いの頻度と認知症との間に関連はみられるのでしょうか?上記の地域住民の内、65歳以上の男女985人を対象にして、介護予防のための生活機能調査票に準じて、物忘れなどの認知機能に関する症状を調査しました。調査では認知機能に関係する以下の3項目の1つ以上にあてはまった場合に認知機能低下症状ありと定義しました。すなわち、1)周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われる→「はい」、2)自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしている→「いいえ」、3)今日が何月何日かわからない時がある→「はい」にあてはまる場合に認知機能低下症状ありとして、笑いの頻度との関連をみました。 その結果、認知機能低下症状ありにあてはまった人は全体の26%であり、ほぼ毎日笑う人と比較した場合、笑う頻度が少ない人ほど認知機能低下ありの頻度は多くなっていました。性・年齢を調整した上で、笑いの頻度と認知機能低下との関連をみたところ、ほとんど笑う機会がない人がほぼ毎日笑う人に比べて認知機能低下があるリスクは2.15倍でした。●笑いの頻度と認知機能との関連 ~縦断研究~ 一方、これらの検討は横断研究であるため、認知機能の低下が笑いの頻度を少なくしているのか、笑いの頻度が少ないことが認知機能の低下を招くのかは明らかではありませんでした。そこで、認知機能低下がみられなかった738人について、1年後にも同じ調査を行い、笑いの頻度が1年後の認知機能低下と関連するかどうか検討してみました。性・年齢を調整した上で笑いの頻度と認知機能低下との関連を検討しましたところ、ほとんど笑う機会がない者が、ほぼ毎日笑う者に対する認知機能低下症状出現する危険度は3.61倍(95%信頼区間:1.46−8.91、p=0.005)であり、笑わない人ほど1年後に認知機能が低下するリスクが上昇していました。さらに、この関連はベースライン時の生活習慣、うつ症状を調整しても同様にみられました。 しかしながら、この結果は追跡期間が短いため、笑いの少ない生活が認知機能低下の原因になるということを結論付けることはできません。すなわち、ここで言えるのは、認知機能が低下することに先行して、笑いの頻度が少なくなる可能性があるということあり、笑いの頻度は1年後の認知機能の低下を予測する因子であることが考えられます。43.532.51.5210.50笑いの頻度と1年後の認知機能低下との関連■ 調整なし■ 性・年齢調整ほぼ毎日週1~5週1~3ほとんどなしまとめ 笑いの頻度は年齢とともに減少する老化指標の一つであり、野菜摂取や喫煙等の生活習慣、糖尿病や動脈硬化等の生活習慣病、および心理的ストレスとの関連がみられることから、笑うことと認知症との間には何らかの関連があるように考えられます。実際、笑いの頻度が少ない人ほど、認知機能低下症状をもつ割合が多く、さらに1年後に認知機能低下症状が出現する割合も高くみられました。しかしながら、笑うことが直接認知症予防に繋がるかどうかということについては、未だ結論は出ていません。もし、笑いを増やすことが認知症予防に繋がるのであれば、笑いを増やすことで、認知機能もしくは高血圧や糖尿病が改善するといった介入効果についてのエビデンスが必要になるでしょう。果たして笑いを増やすことで高血圧や糖尿病等の生活習慣病は改善するのでしょうか?これについては、次号以降にまた概説することにいたします。

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