健康モーニング No83
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健康へのトリオ -運動・栄養・休養-KKC近畿健康管理センター 顧問 医師 阪上 皖庸 序奏 昨年10月1日のわが国の人口は、総務省の推計によると1億2751.5万人。前年より0.22%、大津市の人口に近い28.4万人も減り、減少幅は推計が確かな1950年以来で最も大きいそうです。一方、65歳以上の高齢者は3千万人を超えました。すべての都道府県で高齢者数が14歳以下の年少者数を上回り、少子高齢化が益々際立ってきています。 人口が減ると労働力が減り、国力の衰退につながります。高齢者が増えると年金支給の総額が増え、医療費や介護費用もかさみます。この4月1日施行の改正高年齢者雇用安定法が目指すように、高齢者が元気に働ける環境が整えば、労働力減少に歯止めがかかり、働くとそれ相当の収入も得られて購買力が高まり、国の税収も増え、巨額の赤字財政も幾分か助かって、論議の的の消費税率アップも先送りできるのではないでしょうか。 齢を取っても元気に何かの形で社会活動に参加できるなら、それは何にも増す幸せ、生き甲斐だと思います。退職後に悠々自適を楽しむとしても、健康でなければそれは叶いません。齢をとっても健康を保つには、若い頃から「元気に老いる習慣」を身に付けることがとても大切です。その基本は、一に運動、二に栄養、三に休養です。多くの人はこれが分かっていながら、そのための行動が伴っていません。分かっているだけでは健康は約束されません。 ということで、まずは「分かっていながら不足がちになりやすい運動」の話から…。 第1楽章  運動 人間は動物の仲間です。動物はつまり「動くもの」、英語の“animal”も同じ意味です。動くべき人間が動かないと病気になりやすく、動けないのは即ち病気です。動くと健康に良いことは貝原益軒以来の常識ですし、高血圧や糖尿病や骨粗しょう症などの生活習慣病だけでなく、がんや認知症の予防や進行防止にも有効であることは、医学的にも明らかにされています。 例えば米国ハーバード大のE.L.ジオバヌッチ公衆衛生学教授は、65歳以上の男性が毎週3時間以上活発な運動を行えば、運動しない場合に比べて前立腺がんの発生率が70%下がり、たとえがんが発生しても進行が遅くなって死亡率も明らかに減ることを明らかにしました。同じく米国ピッツバーグ大のK. I. エリクソン助教授らは、13年間にわたって高齢者の身体活動レベルと脳のサイズとの関連を調べ、「1週間の歩行距離が長かった人ほど、その後の脳(灰白質)のサイズが保たれ、認知症にかかる危険度も低かった」と発表しています。 足腰に不自由がない限り、日常一番手軽にできる運動は歩くことでしょう。健康を保つには日に1万歩程度歩くのが良いとされますが、あなたはどうでしょうか。普通に働いている人なら、血圧が少々高くても、心臓病などで医師に運動を制限されていなければ、心配要りません。歩かないほうが有害です。メタボや糖尿病の人はさらに積極的に歩かないといけません。 忙しくて歩く暇などとか、冬場は寒くてどうも、という人も多いですが、駅でエスカレータ、エレベータに乗らない、電車待ちの時間にプラットホームを歩くなど、ちょっとした時間を利用すれば、日に1万歩はさほど難しくないはずです。細切れの運動でもよいのです。並んで待たないと電車で座れないこともありますが、揺られて立っているのも消費エネルギーを増やし、バランス感覚を養う良い運動です。筋肉も骨も、心臓も血管も、運動しないと老化が進みます。走りこむとガタが来る自動車とは違って、人の体は適度に使いこむほど長持ちしますし、使わなければ弱ります。その上、タイヤやバッテリーなど車の部品とは違って、心臓や血管などの人間の部品はそう簡単に取り替えることはできません。丈夫に長持ちさせることが肝心です。8 KKCヘルスネットワーク No.83(2013. 6) 

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