健康モーニング 84
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「第86回日本産業衛生学会」より職域定期健康診断問診票にみる近年の喫煙率の推移と2010年たばこ税増税の効果についての検討KKC近畿健康管理センター 医師 礒島 康史背 景 日本における喫煙率は先進国の中では高い方に属しますが、それでも全体で約20%というところまで低下してきました。ところで、喫煙率に関する調査としては、厚生労働省が行っている国民栄養調査とJTが行っている喫煙率調査が引用されることが普通です。しかし、この両調査は全国から各世代を満遍なく抽出しているとはいえ、サンプル数が少ない(国民栄養調査で約7,000人、JT調査で約20,000人)という問題もあります。私たちKKCでは多くの方の職域定期健康診断や人間ドックサービスを担当させていただいております。問診票の喫煙項目のデータを活用することにより、50万人以上の方(男性約35万人、女性約18万人)の喫煙行動について解析することができました。受診者の年齢・性別、そして居住地域などに偏りがあるのが欠点ではありますが、これだけ大規模な喫煙習慣に関する調査は類をみないものです。また、これまで調査の対象になることがあまりなかった未成年勤労者の喫煙データも含まれています。 この健康モーニングでも2012年1月号において池田らが喫煙行動動態について報告させていただいております(79号、p14~15)。今回はこの時と異なった切り口で検証を行いましたので前記事と併せてお読みいただきますと興味深いと存じます。2006~2011年度の喫煙率の推移:2010年たばこ税増税の効果は? まず、2010年に実施されたたばこ税増税が喫煙率にどの程度の影響を与えたかを検証しました。 KKCで使用している問診票には、喫煙について①以前から吸わない、②今はやめている、③現在習慣的に吸っている、の3項目のいずれかを選んでいただくようになっています。③を選んだ方の全体の中での割合を喫煙率として、性別、年齢別、健診年度別に分けて解析を行いました。解析手法とグラフの見方については図1にまとめました。 近年、喫煙の害についての啓蒙が進み、公共の場や職場などにおいても禁煙、分煙が進んできています。そのため、喫煙率は毎年低下しています。たばこ税増税の効果があったかどうかは、増税のあった2010年に増税前(2009年以前)の喫煙率低下傾向よりも大きく喫煙率が下がったかどうか(95%信頼区間の下限~グラフ中の下側の点線~を下回ったかどうか)で判断しました。 結果を図2(a)~(f)にお示しします。増税の効果が最も顕著に認められたのは30歳代、40歳代[図2(c),(d)]でした。2010年度、2011年度の喫煙率が、それまでの低下傾向に比べてはっきりと下向きにまがっているのがおわかりと思います。その一方で、10歳代、20歳代[図2(a),(b)]でははっきりとした効果が認められませんでした。 ここではスペースの関係上お示しできませんが、喫煙本数については2010年度以降どの年齢階層においても減少する傾向が認められました。つまり、増税による経済的な負担増はどの世代でも感じていたということが示唆されます。つまりたばこ税増税は、経済的な負担の増加自体よりも、禁煙を考えていた世代(30~40歳代)に対してそのきっかけをつくることにより喫煙率の減少を引き起こしたと考えた方が妥当のように思われます。喫煙行動動態の解析~喫煙行動は何歳くらいまでに決定されるのか? 喫煙率の推移は非常に重要なデータですが、それだけをみてもわからないことがあります。例えば、40歳代以降の女性の喫煙率はこの5年間、喫煙率がほとんど下がっていません。これは、この年代の女性が禁煙しないからなのでしょうか?しかし、既に述べました池田らの発表では、女性では40歳代以降であっても高い禁煙移行率(喫煙者が禁煙を開始する割合)が認められていましたし、喫煙開始率(今まで喫煙したことがなかった人が喫煙を開始する割合)が高いということもありませんでした。こういった疑問に答え、特定の世代における喫煙率の傾向はどのようなものであるかを知るために、私たちは以下の方法での解析を試みました。図1 2006~2011年度の喫煙率推移グラフの見方10 KKCヘルスネットワーク No.84(2013. 9) 

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