健康モーニング No.85
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日本産業衛生学会東海地方学会にて弊センター職員が発表を行いましたので掲載いたします。定期健康診断受診者における腹囲とその他の検査結果との関連三重事業部保健技術グループ はじめに 日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準は、腹囲男性85cm、女性90cm以上を必須条件としており、この基準は特定健康診査・特定保健指導制度にも使用されています。健診現場において「どうして血糖値が高くて、血圧も高いのに保健指導対象にならないのか?」という疑問を腹囲が基準値未満のため情報提供に該当する受診者様から頂くことがあります。このような質問が出るということは、個別面談による保健指導がないことに対して疑問や不安を感じていらっしゃるためと考えられます。 本稿では、血圧・脂質代謝・糖代謝の各項目において、特定健康診査の基準値を超えているにも関わらず、腹囲が基準値未満のために保健指導の対象外となっている人(いわゆる「やせメタボ」あるいは「隠れメタボ」といわれる人)がどのくらいいるのかなどにつき解析しましたので、以下に報告いたします。 方法Ⅰ.対象 2011年4月~2012年3月の間に当財団で健康診断を受診された20歳代~60歳代の237,939名です。Ⅱ.方法 性別・年齢階層別で、血圧・脂質代謝・糖代謝の項目について、腹囲の基準値を分割点に有所見の割合を解析しました。結果を図1~3にお示しします。これらのグラフはモザイク図と呼ばれるもので、横の分割線よりも下の色の濃い2つの区画が腹囲基準値以上の受診者の割合を、横の分割線より右の2つの区画がそれぞれの検査項目が有所見である受診者の割合を示します。すなわち、4つの区域がそれぞれ、腹囲基準値未満かつ検査正常域(左上)、腹囲基準値以上かつ検査値正常域(左下)、腹囲基準値未満かつ検査値有所見(右上)、腹囲基準値以上かつ検査値有所見(右下)の割合を示します。 結果 血圧と腹囲の関係を図1に示します。男性で血圧が有所見である受診者のうち、腹囲が基準値以上の受診者の割合は、40歳以上では、約半分にすぎません(それぞれのモザイク図の右上と右下の区域面積を比べてみてください)。女性ではさらに少なく、約2割でした。すなわち、現行の特定健康診査の基準では、血圧有所見者のうち男性の約半数、女性の8割近くは見落とされていることになります。 また、腹囲別に血圧有所見の割合を比べてみると、男性20歳代では、腹囲が基準値以上か未満かで血圧有所見者の割合が大きく異なり(モザイク図横分割線の段差が大きい)、腹囲によるスクリーニングがある程度効果的だと示唆されます。しかし、60歳代になると、腹囲基準値未満と基準値以上での差は非常に小さくなり(横分割線の段差が小さくなっている)、腹囲によるスクリーニングがあまり機能していない可能性が示唆されました。これは、女性でも同様の傾向が認められました。 脂質代謝(図2)・糖代謝(図3)についても血圧と同様の結果が得られました。 またスペースの関係上お見せできませんでしたが、血圧・脂質代謝・糖代謝の3つの項目のうち、何項目有所見に該当するかの数と腹囲の関係についても同様の結果が得られました。 まとめ 現在の特定健康診査では腹囲を必須の判定項目としています。しかし、私どもの解析から、加齢に伴い検査が有所見であっても腹囲が基準値未満の人の割合が増加し40歳代以上では過半数にのぼることが示されました。また、腹囲が基準値未満と基準値以上で分けた場合の有所見者の割合の差も加齢とともに小さくなっていくことが示されました。これらの結果は、加齢とともに腹囲によるスクリーニング効果が弱くなってきていることを示唆するものでした。 そのため、特に50歳代以上では腹囲を一次スクリーニングとして用いるのではなく、他の検査結果と並列の基準とする必要があるのではないかと考えます。18 KKCヘルスネットワーク No.85(2014. 1) 

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