健康モーニング No.85
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「元に戻ることが回復なのか?」(ビジネスマンうつからの脱出)楠木 新 のべ5回行われたKKCヘルスアップ・セミナーの前半では、うつ状態で、休職、復帰を繰り返した私の3年間の体験を率直に語り、後半では『「うつ」からの回復とは、元に戻ることなのだろうか?』という私が従来から感じていた疑問も述べました。 私自身は初めての休職を経て会社に復帰した後、10か月程度は調子の良い状態が続いたのです。ところが翌年に役職に戻って仕事を始めると、再び調子を崩し、2回目、3回目の休職につながっていきました。 その時に、自分の気持ちの持ち方やライフスタイルが変わっていなければ、同じ状況を呼び込んでしまうのだと痛感したのです。 休職を経て体調が戻ってきても、何かもどかしい気分を抱えている社員も少なくないでしょう。実際には、「うつ」をきっかけに役職から外れたり、職場での立場に大きな変化が生じていることも多いからです。 私も平社員になり、時間的には余裕ができましたが、何をすればいいのか分からない状態に陥りました。会社にぶら下がっていた自分を思い知らされたわけです。 もちろんこの話は、相当体調を取り戻してからのことです。通勤すること自体が辛いレベルでは、医師のバックアップが不可欠ですし、看護師、保健師、カウンセラーなどの専門職の手助けが必要なことは言うまでもありません。 ある著名な心療内科医が、私が書いた本の一文を週刊誌で取り上げてくれたことがあります。『「うつ』が治るというのは、元に戻ることではなくて「自分の心構えを切り替えること」「新しい生き方を探すこと」だというのが実感である」』という部分です。理解してくれる医師の方もいるのだと嬉しくなったものでした。 会場からいただいた質問表にも、「新たな道を見つけることを勧めたい人がいる」という意見もありました。 私の場合は、会社員から転身して、各種の職業に就いた人の話を聞くことによって自分の進むべき道が見えてきました。会社員から蕎麦屋を開業したり、職人さんになった人達です。メンタル面の不調から立ち直ってカウンセラーの道を歩まれた方もいます。もちろん会社を辞める必要はありません。心構えを切り替えたり、新たな働き方を見出すためには、先達が重要な役割を担うということです。 頭の中で考えているだけでは、堂々巡りになります。具体的なお手本になる人が身近にいると具体的な行動に結び付きやすいのです。 そう考えると、NPOやベンチャー企業が、復帰して元気に働かれている人達を、回復途上の人に引き合わせることはできないでしょうか?もちろんメンタル面だけではなく、内臓疾患や事故による休職から立ち直った人も十分先達になりえるでしょう。 これは私の体験からの一つの対応策です。突飛な意見に思われるでしょうか?もしこのような動きがあれば、喜んで参加させていただくつもりです。休職した経験を糧に新たな働き方を見出した人の多くは、ご協力いただけるのではないかと私は勝手に考えています。 3回の連載を読んでいただきましてありがとうございました。楠木 新(くすのき あらた)1979年、京都大学法学部卒業後、大手企業に入社。人事・労務関係を中心に、企画、営業、支社長等を歴任。勤務の傍ら、新聞での連載、本の出版、講演などに取組む。一昨年まで関西大学で非常勤講師(「学部学生のための会社学」)をつとめていた。著書など・『ビジネスマン「うつ」からの脱出』(創元社 2003年)・『こころの定年』(朝日新聞beのキャリア欄に、一年間連載 2007年)・『わが子を失敗させない「会社選び」』(ダイヤモンド社 2009年)・『会社が嫌いになったら読む本』(日経プレミアシリーズ 2009年)・『会社が嫌いになっても大丈夫』(日経ビジネス人文庫 2010年)・『就活の勘違い』(朝日新書 2010年)・『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ 2011年)・『サラリーマンは、二度会社を辞める。』(日経プレミアシリーズ 2012年)6 KKCヘルスネットワーク No.85(2014. 1) 

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