I.一般検査

9) 心電図検査(図表J1-8-10

受診者数:472,732人(男性308,450人、女性164,282人)
有所見率:1.9%(男性2.1%、女性1.4%)

 心電図異常の出現率はすべての年齢層で男性が女性を上回ります。男女とも50歳台以降での上昇が顕著です。中高年齢層の心電図異常の多くは冠状動脈硬化を原因とする虚血性心臓病によるものです。50歳台以降に女性では脂質異常症の有所見率が急上昇するのに対し、男性ではそれが漸減しますが、高血糖、高血圧、BMI高値の有所見率が30〜60歳台で女性より高く、さらに喫煙率や職場ストレスも女性より概して大きいなど、男性では女性より動脈硬化を起こす要因の多いことが、男性中高年層での異常の出現率を押し上げていると考えられます。
 心電図異常所見の内訳(項目別所見内訳・図表6-4)では、病的な意味合いが軽い左室高電位・不完全右脚ブロック・左軸偏位を除いた上位6位は(単位:%)、順に男性では@平低T波と完全右脚ブロックがいずれも1.7、Bブルガダ型波形1.3、C洞性徐脈1.1、D軽度ST低下0.8、EPQ(PR)延長0.7で、女性では@軽度ST低下2.4、A平低T波1.9、B異所性上室性調律1.0CR波の増高不良0.8、D完全右脚ブロックと陰性T波がいずれも0.7となっています。
 完全右脚ブロックは男性で最も多い所見で、女性の2倍以上の出現率ですが、一般に病的な度合いは強くありません。平低T波、ST低下、陰性T波、ST-T異常は虚血性心臓病で現れることの多い所見ですが、女性では軽度ST低下など、心臓に異常がなくてもよく現れる所見(正常亜型)が上位を占め、過剰診断の(所見を重く見すぎる)恐れがありますので、血圧、肥満度、血糖値、血清脂質値など動脈硬化に係る所見を見比べて、総合的に判断しなければなりません。PQ(PR)延長と短縮、異常Q波、異所性上室性調律、R波の増高不良の多くは無害なものですが、中には放置できないものもあります。精密検査を指示された場合、無症状であっても受診する必要があります。
 重篤な不整脈や心不全を起こすことがある波形には、QT延長・WPW症候群・多源性心房頻拍・上室性並びに心室性頻拍・心室性期外収縮頻発・洞房ブロック・モビッツU型房室ブロック・両脚ブロック・完全房室ブロック・心房細動および粗動・早期再分極波形(ブルガダ型波型・イプシロン波・オスボーン波)・陳旧性心筋梗塞など、多くの種類があります。個々の出現率はいずれも低いものの、その合計は男性で2.5 %、女性で1.0%に上ります。心房細動は心原性脳塞栓症を起こす危険があり、有所見率は女性の0.1%に対し、男性では0.4%と無視できない高さです。60歳台前半で1.5%、60歳台後半で2.2%、70歳台以上では3.9%と高年齢層ほど高いので、高齢者が多い職場では特に注意が必要です。一旦脳塞栓症が起これば直ちに救急治療が必要なので、産業保健職はこのような波形を持つ人に適切な指導と受診勧奨を行うことが大切です。自覚症状がないからと、放っておく人が少なくないからです。ブルガダ型波形の出現率も女性は0.1%と低いのに対し、男性では1.3%と比較的高く、稀には突然死を起こすことがあります。突然わけもなく動悸が打ったり、めまいや失神の経験があるとか、血縁者(特に45歳以下の男性)で突然死した人がいる場合は、循環器専門医に受診する必要があります。

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