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第52回近畿産業衛生学会 平成24年11月 和歌山市

若年層における食習慣と健康診断結果の検討−標準的な質問票を用いて−

〇川嶋由貴、西村梢、三原安律子、嵯峨裕子、寺田哲也、富一弘、礒島康史、阪上皖庸、木村隆
財団法人 近畿健康管理センター

【目的】

 特定保健指導は5年目となり評価の年を迎えている。特定保健指導の対象は40歳以上であるが、30歳代以下の若年層でもメタボリックシンドロームの基準に該当する割合は決して少なくない。当財団は年齢階層ごとにメタボリックシンドローム該当者の肥満傾向や検査データの分布を解析し、30歳代以下の若年層では単純肥満に起因するメタボリックシンドロームが多いことを示唆する結果を発表している。そこで我々は、特定保健指導の対象となっていない若年層において、検査結果に影響を与える食習慣を明らかにし、早期の保健指導に有効な因子を探ることを目的とし、厚生労働省の定める標準的な質問票に含まれる項目を用いて検討を行った。

【方法】

 平成22年4月から平成23年3月の間に当財団で健康診断を受診された方のうち、BMI、腹囲、血圧、脂質代謝、糖代謝の検査データがそろっていて、かつ空腹時の採血であった男性93,640人、女性38,427人を調査対象とした。標準的な質問票に含まれる食習慣4項目に、当財団が健康診断時の問診に含んでいる脂濃いものへの嗜好を追加した食習慣5項目と、検査データ及び問診項目(喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、体重変化)との関連を、個人が特定できないようデータを匿名化して解析した。

【結果】

 1)年代別の食習慣傾向:男性では「食べる速度が速い」、「就寝前の夕食」、「夕食後の間食」、「朝食の欠食」、「脂濃いものへの嗜好」に該当した人の割合は、10歳代〜30歳代の若年層にピークが認められ、年齢階層が上がるに従い、減少する傾向を示した。女性では、「食べる速度が速い」に該当した人の割合が40歳代・50歳代に多い傾向を示したが、他の項目については、男性と同じく若年層において好ましくない食習慣を示す傾向が認められた。
 2)30歳代における食習慣と他の問診項目の関連:喫煙習慣のある男性では「就寝前の夕食」、「朝食の欠食」、「脂濃いものへの嗜好」に該当する割合が顕著に高かった。毎日の飲酒習慣のある男性では「就寝前の夕食」に該当する割合が顕著に高かった。また、男女とも20歳からの体重10kg増加があった人では、食習慣5項目いずれについても該当する割合が有意に高かった。
 3)30歳代における食習慣と健康診断結果の関連:男女とも「食べる速さが速い」、「脂濃いものへの嗜好」に該当する人は、該当しない人に比べBMI・腹囲が高かった。男性では、血圧、糖代謝(空腹時血糖、HbA1c)、脂質代謝(TG、HDL-ch、LDL-ch)、肝機能(GPT)の検査データについても、これらの食習慣に該当する人は該当しない人に比べ異常値を示す割合が高い傾向を示した。女性では男性のような関連性は認められなかった。
 4)食習慣間の関連:5項目の食習慣は互いに関連する傾向を示したが、中でも「食べる速さが速い」と「脂濃いものへの嗜好」については明確な関連を示した。

【考察】

 今回の研究より、若年層に食習慣の乱れが多い傾向がみられ、30歳代において食習慣と健康診断の結果にも関連がみられた。特に、食べる速さと脂濃いものの摂り方が検査結果に影響することが示唆され、この2つの食習慣の間にも相関がみられたことから、複合的に影響を及ぼしていることも考えられる。40歳未満は現在特定保健指導の対象となっていないが、若年層のメタボリックシンドロームには単純肥満によるものが多いと考えられること、食習慣により20歳からの体重増加やBMI・腹囲等に差がみられたことから、若年層からのメタボリックシンドローム対策として、食生活指導、特に食べる速さについての指導は有効ではと考えられる。また、厚生労働省の示している標準的な質問票に含まれない脂濃いものへの嗜好についても、問診項目に加えることが望ましいと思われる。今後、業種別の傾向等についても検討を進め、より生活状況に合わせた早期の介入ができるよう検証したいと考える。
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