第52回近畿産業衛生学会 平成24年11月 和歌山市

動脈硬化のリスク因子の解析

〇桂田ちづる、小山康弘、森野薫、山道直樹、寺田哲也、富一弘、礒島康史、西村明芳、金沢裕一、木村隆

【目的】

 2001年度より労働者の業務上の事由による脳・心臓疾患の発生を予防するため、労災保険制度に基づく二次健康診断(労災二次健診)が実施されている。労災二次健診は、肥満、血圧、血中脂質異常、糖代謝異常の4項目のうち、3項目以上該当した健診受診者で、産業医の指示する方に実施することになっている。当センターでは労災二次健診受診者に対し、頸部超音波検査と心臓超音波検査を実施している。今回、労災二次健診受診者の中で頚動脈プラーク形成に至った人と至らなかった人の年齢、生活習慣項目、血液検査項目を比較し、動脈硬化のリスク因子の解析を試みた。

【方法】

 平成21・22・23年度に当センターにおいて、労災二次健診を実施した男性461名(48.5±9.0歳)を頚部超音波検査で頚動脈の内膜・中膜複合体厚(IMT)が1.0o以下であった群(A群)、1.1o以上であった群(B群)に分類した。動脈硬化は年齢の影響を強く受けるため、受診者を4つの年齢階層(30歳代:75名、40歳代:172名、50歳代:156名、60歳代:58名)に分け、各年齢階層のA群、B群間で血液検査項目(TG,LDL-ch,HDL-ch,血糖値, HbA1c)、BMI、腹囲、血圧、生活調査票(喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、食習慣)について解析・検討を行った。

【結果】

 動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、高LDLコレステロール血症、高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴、低HDLコレステロール血症、男性、加齢を主要危険因子として挙げている。我々のデータでも加齢とB群の割合の増加は有意に相関していることが示された。
 血圧、脂質代謝、糖代謝に関する項目については、元々労災二次健診受診者というバイアスのかかったグループの解析であり、年齢に関係なく動脈硬化と相関を示す項目は認められなかった。しかし、糖代謝においては30歳代で、コレステロール代謝においては50歳代でB群の検査結果がA群に比べて有意に悪い傾向を示した。
 血圧、中性脂肪についてはどの年齢階層でもA群とB群の間に有意な差は認められなかった。
 生活習慣についてみると、40歳代のB群において同年齢階層のA群と比べて有意に高い喫煙率が認められた。一方、飲酒習慣、運動習慣、食習慣、については、いずれの年齢階層においても有意差は認められなかった。

【考察】

 労災二次健診データは、高血圧、耐糖能異常、脂質代謝異常、肥満を多く含む高リスク群である。このような集団においても加齢はB群の主要なリスク因子と考えられる。他の主要危険因子としては、コレステロール代謝異常が50歳代の高年齢層、糖代謝異常が30歳代の若年層、喫煙習慣が40歳代とそれぞれ異なる年齢層で有意差が認められた。本研究は横断研究であり、動脈硬化とこれら主要危険因子との因果関係について推測することはできないが、上記のような年齢階層特異的な相関関係は動脈硬化性疾患を未然に防ぐ上で、受診者の生活習慣指導に役立てることが期待できる。
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