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第85回日本産業衛生学会 平成24年5月 名古屋市

健康診断結果から見た労働者の睡眠の解析

〇阿部志津香、寺田哲也、嵯峨裕子、谷口俊樹、礒島康史、阪上皖庸、藤田正憲、木村隆
財団法人 近畿健康管理センター

【背景】

 近年睡眠習慣と疾患、例えばうつや高血圧、糖尿病など、の関連ついての報告が多く出てきており、我々は職域においてどのような特徴があるのか報告をしてきた。(第51回近畿産業衛生学会:奈良)
 前演題では睡眠時間の性別・年齢別傾向:男女ともに40才代をピークに睡眠時間が短い傾向がみられたことから本演題では、さらに40才代でかつ交替勤務の有無を含めた詳細解析を行った。

【方法】

 平成22年4月から平成23年3月に当財団で健康診断を受けた、40歳代男性67,888名について、交替勤務の有無(年2回の健診を受けた方を深夜業務対象と仮定)毎の睡眠に関する問診項目(特定健康診断特定保健指導の標準的な問診項目に準ずる6時間未満、7時間以上)と、健診データ(BMI・血圧・肝機能・脂質・糖代謝)及び問診項目(飲酒習慣・喫煙習慣・運動習慣・食習慣)また治療率との関連を当財団の研究調査活動規程および個人情報保護規程に則り個人が特定できないよう匿名化して解析した。

【結果】

 1)交替勤務の有無による睡眠時間差の傾向:深夜勤務の有無に関わらず6時間未満が86%,7時間以上が14%と差は見られなかった。2)睡眠時間による変化:睡眠時間が短い方が、BMIと腹囲がやや高い傾向がみられた。LDLやHbA1cといった生活習慣病関連項目においても睡眠時間が短い方が異常値を示す割合が高く朝食の欠食や就寝前の食事、夕食後に間食をとることがあるといった項目を回答した割合も高かった。さらに運動習慣も運動をしていないと回答する割合が高い傾向を示した。一方、血圧については睡眠時間の長い方にやや高血圧や服薬治療中の割合が多い傾向がみられた。また睡眠時間が長い方が毎日飲酒習慣のある割合が多くγ-GTPが高値を示す傾向が認められた。空腹時血糖や中性脂肪には明確な差は認められなかった。喫煙習慣についても明確な傾向は認められなかった。3)交替勤務の有無による変化:健診データについては明確な差が見られなかったが交替勤務有りの方が朝食の欠食や夕食後の間食、遅い夕食、脂濃いものを好んで食べると回答する割合が高く喫煙習慣も交替勤務有りの方が高い傾向を示した。興味深いのは精神疾患の治療率が、交替勤務無しと比較して高い傾向を示した。一方交替勤務無しの方に肝疾患や脂質異常症の治療率が僅かに高い傾向を示した。

【考察】

 睡眠時間が短い群は、食習慣及び運動習慣で好ましくない習慣を回答する率が高く、検査結果では生活習慣病関連項目で異常値を示す割合が高い傾向が認められた。すなわち、短い睡眠時間が脂質異常症や糖尿病の発症に影響を及ぼしている可能性が示唆された。反対に睡眠時間の長い群は、飲酒習慣やγ-GTPの結果より過量飲酒する傾向が示唆された。一方交替勤務が有りでは、食習慣や喫煙習慣が好ましくない習慣を回答する率が高かったが、治療率では交替勤務無しの方が僅かに高いことから、ある程度の就業上のコントロールがなされていることが考えられるが、精神疾患については差が大きく、交替勤務者へのメンタル面への介入の必要性が示唆された。
 今後は生活習慣病予防において睡眠習慣の改善にも目を向けた保健指導を行っていく必要があると考えられる。またメンタルヘルス対策が取り入れられようとしている現状では、交替勤務という要素も検討課題であることが考えられる。
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