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第85回日本産業衛生学会 平成24年5月 名古屋市

定期健康診断における食後血糖値の解析と意義

〇大西大介、池田由香、辰巳一裕、前田啓行、佐藤裕之、礒島康史、小西泰元、木村隆
財団法人 近畿健康管理センター

【背景】

 厚生労働省「平成19年国民健康・栄養調査」によれば、わが国において、糖尿病が強く疑われる人は約890万人、糖尿病の可能性が否定できない人は約1,320万人と推定されており、糖尿病の早期発見・早期治療のために定期健康診断は重要な機会である。
 職域定期健康診断においては空腹時採血を行うことが多いが、健康診断のスケジュール上の都合や、夜勤などの受診者の勤務形態のために、食後に採血を行うことも稀ではない。しかし、空腹時血糖値と異なり食後血糖値の扱いについては明確なコンセンサスはなく、日本糖尿病学会によるガイドラインでは、随時血糖値≧200mg/dlを糖尿病型としているのみである。
 近年、2型糖尿病においては明らかな発症の前に食後血糖値の上昇として現れることや、食後高血糖が動脈硬化・心血管疾患の独立した危険因子であることが明らかとなり、空腹時血糖値だけでなく食後血糖値測定の重要性が指摘されている。2008年には国際糖尿病連合(IDF)から食後血糖値の管理に関するガイドラインが発表され、糖尿病治療においては食後血糖値が140mg/dlを超えないよう管理すべきとの指針が出された。定期健康診断における食後血糖値は、食後高血糖者のスクリーニングに有用であると考えられるため、我々は血糖値と食後時間の関連について解析を行った。

【結果】

 男性の空腹時血糖値の平均±標準偏差は94.0mg/dl±15.2、女性は88.5mg/dl±10.5であった。血糖値平均のピークは、男性は食後1〜2時間で106.3mg/dl±34.8、女性は食後1時間以内で106.0mg/dl±26.7であった。血糖値の平均は食後4時間で空腹時血糖のレベルに戻った。
 血糖値が糖尿病型を示したのは、男性では空腹時では2.6%、食後では2時間以内で2.1〜2.5 %以上であった。女性では、空腹時では0.8%、食後2時間以内で0.7〜1.0 %であった。
 IDFの食後高血糖基準である140mg/dl以上に該当するのは、男性では食後2時間以内で10.9〜11.8 %、女性では9.6〜10.9%であった。
 受診者を、次の年度(2010年度)に血糖値が糖尿病型を示した群(該当群)と示さなかった群(非該当群)に分けて比較したところ、空腹時血糖値のみならず食後血糖値でも該当群の方が高値を示した(男性空腹時:非該当群92.2mg/dl±9.6 vs 該当群:138.8mg/dl±41.4、男性食後1〜2時間:非該当群103.2mg/dl±26.8 vs 該当群:194.2mg/dl±83.7)。

【考察】

 正常耐糖能者においては、食後血糖値は一般に140mg/dlを超えることは少なく、食後2〜3時間で前値に戻るとされている。しかし、我々の結果では食後2時間以内では血糖値が140mg/dlを超えた受診者の割合が男女とも10%を超えていた。また、食後の血糖値上昇も報告されたよりもやや長く食後4時間までは遷延することから、食後高血糖を示すいわゆる「糖尿病予備群」の割合がかなり高いことを示唆している。
 翌年度の健診で血糖値が糖尿病型を示した受診者(該当群)の前年度における血糖値の平均は、空腹時、食後とも非該当群に比べて著明に高値を示した。
 これらのことから、健診における食後血糖値は、将来の糖尿病のハイリスク群のスクリーニングに有用と考えられる。
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